億万長者になる方法に奇策はない。当たり前のことをコツコツとやるしかないということを強く思い知らせてくれる本である。 著者の本田静六氏は1866年に生まれた。苦学の末1892年に東京農科大学(現在の東大農学)の助教授となり、研究生活を続けながら独自の投資哲学(主に株式と山林投資)でもって莫大な財産を築いた。驚くべきは、本書が執筆されたのが1950年であるにも関わらず、その手法が現在でも十分通用するという点にある。 株に関していうと主な極意は以下のとおりである。
「好景気には勤倹貯蓄を、不景気時には思い切った投資を」
頭ではわかっていてもなかなか実行できるものではない。この原稿を書いている2014年9月25日の日経平均株価は終値で年初来高値を記録したが、人間の心理として株価が上がっているとき(市場が盛り上がっているとき)ほど株を買いたくなるものである。 また、本書では、業績が堅調な会社の株を割安なときに買っておけば、5~10年の間に必ず大きな変動がきて、騰貴する場合があるとも指摘している。個人投資家の一番の強みは結果がでるまでじっと待つことができる「時間」であるが、短期的な損得に囚われないというのも簡単に真似できることではないだろう。
「無理をしないで自己資金内でやる」
本田氏は決してハイリスクな投資をしている訳ではない。「投資の第一条件は安全確実。そこから比較的安全というところまで歩みよる」「無理をしないで自己資金内でやる」と書いているように、非常に慎重である。 ちなみに、本田氏は清算取引(現在は未再開)というややリスクの高い投資も行っていたが、損が出た時に引き取る現金は用意しているので、身の破滅にはつながらないように保険はかけていたようだ。 「投資で損をした。もう懲り懲りだ」という人の話をよく聞くと、自分の身の丈以上のお金をつぎ込み、痛い目にあったというケースが多い。一発逆転のホームランではなく、ヒットとバントでコツコツつないでいく姿勢が重要なのであろう。
「攻めの投資分散」
よく例に出されるのが「卵は一つの籠に盛るな」というアドバイスである。資産を守る上では有効な考えだが、本田氏は投資先を分散することは決して守りの為だけではないという。 例えば、全部で10の投資対象があったとする。「一で失敗しても二で成功し、二で損をしても三で償う」というように、全部で成功しようというのではなく、全体としてプラスになればよいという考えである。
それぞれの詳細は本書を読んで頂きたいが、お金儲けに関して素人であるはずの東大教授が、これらの極意を自分で研究・実践し成果を出したということに驚かされる。 しかし、何と言っても最も驚いたのは、本田氏が定年退官を機にほとんどの財産を匿名で寄付してしまったということである。残った財産で、本田氏は悠々自適の老後を過ごしたそうだ。お金に執着しすぎると、投資で失敗するということかもしれない。