「そういえば実家の菩提寺の宗派ってなんだろう?」 「祖父の葬式のとき、両親はお坊さんに幾ら払ったんだろう?」 「お墓の管理っていくらかかるんだろう?」
実家を離れて一人暮らしをしており、お葬式をはじめとする法事関連を両親にまかせっきりにしている人は多いでしょう。しかし、いつかは自分がお墓の管理を引き継いだり、喪主となって葬式を取り仕切らなければならない日がくるはずです。そうなると、様々な「サービス」の対価を、お坊さんに払うケースは増えてきます。
「なんでこのお金を払う必要があるのか」 「そもそもこの価格設定の根拠は何か?」 「言われた通り支払わないといけないのか?」
そんなことを思わず考えてしまう人にこそ読んでほしい本です。
本書のタイトルはなかなか刺激的ですが、著者は2012年に檀家制度を廃止した現役住職です。しかも、本書では宗教法人が行政に提出する書類である「収支計算書」「財産目録」「寺院規則」の全てが公開されており、お金の流れからみた寺院経営という観点からも非常に興味深い内容となっています。
著者は檀家制度が誕生した理由や戒名にランクがある理由を、その歴史的成り立ちから丁寧に説明します。そして、それらの法事による収入が現代の寺院経営における「事業」としてどう位置づけられているのかも明快に解き明かしていきます。 もし、お坊さんが一人の人間として生活を維持し、寺や墓を守っていくために必要なお金だと納得できれば、「顧客」である檀家は喜んでお布施をするでしょう。しかし、著者が指摘するように、住職のなかには「高級車に乗っている」「いつもゴルフの話しかしない」「儲かる家業だから継いだだけ」という人も残念ながら一定数います。
やや過激な言い方になりますが、本書を読んでいくと「そんなお坊さんのためにお金を払う必要はない」という気持ちになってきます。お寺の「ビジネスモデル」を理解した上で、本当に信頼できるお坊さんと付き合いたいものです。 また、こういう本が世に出るということ自体、日本人と仏教の関係が大きく変わりつつある証拠かもしれません。近年、葬式をはじめとする法事の簡素化・簡略化が進んでいます。葬式でのお経にしても、宗教心からというよりは単なる儀式の一つとしてとらえている人も増えています。そんな状況ではお寺の経営も厳しさを増してきます。「顧客」のニーズにこたえるために、住職が情報を開示し、提供するサービスの中身を懇切丁寧に説明せざるを得ない状況になっているといえるでしょう。